今回のゲストは、2008年のデビュー作 『食堂かたつむり』以来、
30冊以上の本が出版されている作家の小川糸さん。
小説では食にまつわる描写が魅力的で、
多数あるエッセイ作品にも食に関するエピソードが豊富です。
ベルリンでの移住経験、
2022年7月から始まった長野県・八ヶ岳の山小屋生活など、
自分らしさを大切にした小川さんのライフスタイルと、
その象徴ともいえる食生活についてお話しいただきました。
色紙に記した言葉は「吾唯足知」。
「われ、ただ足るを知る」と読みます。
「京都・龍安寺の蹲踞(つくばい)に刻まれた禅語で、
『身の丈を知って欲張らない』と自分を戒める言葉です」と小川さん。
小川さんの小説にも登場する言葉でもあり、無駄なものを抱えるより、
気に入ったものを日々使いたい、という
小川さんの姿勢にも通じる言葉といえます。
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山形県出身。2008年のデビュー作 『食堂かたつむり』は多くの言語に翻訳され、
イタリア、フランスでは文学賞を受賞。日本で映像化された。
『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『ライオンのおやつ』は、
日本全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」の候補となった。最新刊は『とわの庭』。
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●“おふくろの味”は祖母の手料理
小川さんが料理を始めたのは、高校を卒業後に進学で上京してから。
アルバイト先の飲食店でホールや厨房の仕事を経験し、
自分でも作るようになったそうです。
「私にとってなじみ深いおふくろの味は、祖母の手料理。
祖母は一日中、台所に立って料理をしているような人で、
お寺の生まれだったので、作るのはもっぱら精進料理でした。
自分で料理をするようになって、作りたいと思ったものも、
祖母が作ってくれていた野菜中心の家庭料理でした」。
●八ヶ岳を気に入った理由
新鮮な野菜が入手できる八ヶ岳は、野菜中心の食生活を送る小川さんにはぴったり。
「例えば、夏のとうもろこしは、生で食べられるほど鮮度が高く、
ハウス栽培とは明らかに違う味。おいしくて、毎日でも食べたいくらいなんです」。
野菜以外にもソーセージやハムなど、おいしいものが手に入りやすい点も
気に入っているとのこと。
「ただ、冬場は食べ物の確保が難しくなるので、
夏のうちから保存食を準備しています」と、
少しずつ冬の備えにいそしんでいたそうです。
●暗闇と静けさの中に身を置く心地よさ
「八ヶ岳の夜は、あり得ないほどの暗さなんです」と小川さん。
「山小屋の周りは森で、月が出ていても月明かりが届かないほど
木々に覆われているので、真っ暗。
そのうえ、木の実や葉が落ちる音にびっくりするほど静かなんです。
八ヶ岳で暮らし始めた当初は、怖くて右往左往していました」。
八ヶ岳で過ごすうちに慣れていき、都会の明るさや喧噪より、
山の静けさや暗さの中に身をおくことが好きになったといいます。
自然を受け入れ、対峙する小川さんの芯の強さが感じられました。
(編集部)